喫茶ポストアポカリプス

よくわからん根っこを煮だした茶とよくわからんペースト状の食い物をアルミの食器で供する。

Кафе постапокалиптический

21世紀から来たエレン・リプリーの敵はエイリアンではない―「ゼロ・グラビティ」



2014年の映画初めとして、「ゼロ・グラビティ」を観てきた。

あらすじ


ハッブル宇宙望遠鏡を修復するミッションを受けた医療技師のライアン・ストーン(サンドラ・ブロック)とNASAの宇宙飛行士、マット・コワルスキー(ジョージ・クルーニー)、シャリフの三人はその船外活動中にロシアの人工衛星が爆破処理されたことを知る。
当初、爆破の影響は無いとされていたが、連鎖的に壊れた人工衛星によるスペースデブリハッブルと3人の乗ったシャトルを襲い、ライアンはシャトルから放り出されて宇宙空間を漂流する。

周囲でずいぶんと話題になっていたので気になって見に行ったけれど、正解だった。
個人的には最初に出てくるのがハッブル宇宙望遠鏡というのが、今はなきサントリーミュージアム天保山併設のIMAXシアターを思い出す。
予告編を見る限りではあらすじにあるようなライアンが放り出されて漂流するところのみが公開されていて、宇宙漂流によるジワジワ来る死への恐怖が描かれるドキュメンタリータッチの作品なのかと思っていたが(ドキュメンタリータッチに描くにはちとつじつまの合わない所も多いんだろうか、と素人目にも映った。)そんなことはなく、ハラハラさせるサスペンス・アクションのニオイもする作品だった。

ベストジョージ・クルーニー賞をあげたい。


映画の中盤以降はほとんどサンドラ・ブロック一人にしか出番が無く、エンドロールのキャストの項には管制塔からの声なども含めても10人ほどしか名前は無い中ではあるものの、ジョージ・クルーニー演じるベテラン宇宙飛行士、マット・コワルスキーの放つ存在感がたまらない。

冒頭、宇宙に行っている間にワイフを寝取られた話をジョーク交じりに話す、きさくな上司。いざ、事故が起これば冷静に対処し、最終的にはある決断を下す。
あれこそ、僕が求めるジョージ・クルーニー像。
以下ネタバレも含む



神舟のポッドに乗り込んでくるシーンも、興ざめしなかったのは彼ならではなのではないか。

21世紀から来たエレン・リプリーの敵はエイリアンではない


本作で宇宙空間から一人生還するために奔走するライアンを待ち受けるのはゴテゴテした空飛ぶ円盤でもなく、黒い節足動物のような体に蛍光グリーンの血をまき散らす凶暴なエイリアンでもない。無重力そのものが彼女の敵となる。
慣性の法則によって目にも止まらぬ早さで降り注ぐスペースデブリ、火を吹きながら飛び回るガス(酸素?)ボンベ、絡みつくパラシュートのワイヤー…。
崩壊、炎上するISSから脱出するシーンでは様々な物が彼女に牙を剥く。
VFXの発達によって、おどろおどろしいクリーチャーの出番が無くてもあんなにハラハラする画が観られるとは驚いた。
(あれ、ホントにどう撮ってんだろうか…。)

ライアン、大地に立つ…立てない…立つ…立てない……そして。

ライアンは最後に地球に帰還し、湖のほとりで必死にもがいて、もがいて、立ち上がる。
重力を振りきって。

空虚な宇宙空間でのハラハラさせるシーンは全てこのシーンのためにあったのか、と思うぐらいキレイだった。
やっぱり邦題の「ゼロ」は余計だったと思わされる瞬間。

攻殻機動隊 GHOST IN THE SHELL草薙素子のことも(清水寺の胎内巡りのことも少し)思い出してしまう、覚悟を決めた女性の生まれ変わりの物語。

まだの方はぜひ映画初めに行ってもらいたい作品。

追記

3D映像のすごさの他にも、音の演出も面白いと感じる作品だった。
真空のシーン、無線、鼓動、水中…良い音響設備で楽しめた。